愛しき花、サボテンの花

Cactus flower 些事いろいろ

 
 今年も咲いた。

約束を守るかのように、可愛い花が。

季節を忘れずに、咲いてくれたんだね。

普段は、肥料はもちろん、水さえほとんどやったことがないのに。

   
   

 30年以上も前のことになる。

家族で伊豆へ旅行したときのこと。帰りに、熱帯植物園に寄った。

小学生だった娘がそこでお土産に買ったのが、直径4㎝ぐらいの、小さい緑のボールのようなサボテンだった。

頭の部分に、円を描いて小さな赤い花が咲いていた。

   

 かわいくて、きれいなものが好きな娘は、なんてかわいいんだろうと思って買ったに違いない。
   

が、私はそれを見た時に、え? これ、ほんとの花かな。

なんかドライフラワーみたいだなと思ったのだ。

いかにも花が咲いているように見せて、ドライフラワーが差し込んであるのではないか? 

娘がお土産屋さんにだまされたように感じて、不愉快になってしまった。

   
   

「これほんとの花じゃないんじゃないの? 

こんな小さなサボテンに、こんなにきれいに花が咲くわけないよね」などと、心無いことを言ってしまったのだ。

   

娘の、変なものを買ってしまったのだろうか、というような戸惑った表情が忘れられない。
   

   

 そのサボテンは、しばらくのあいだ出窓のところにおいてあった。

   

 10年ほど経ち、我が家の引っ越しと共にサボテンも引っ越した。

   
   

 それからさらに10年ほど。

サボテンは沈黙のまま、花は咲かせずに、しかし着実に、少しずつ成長していた。

   

 ある初夏のこと。

窓際の机の上にふと目をやると、サボテンが、あのかわいい花を咲かせているではないか。

鮮やかな赤い花だ。昔、伊豆で見た時と同じ花。

あ、ほんとにこういう花が咲くんだ!

なんてかわいいんだろう。
   

   

 そして、あのとき娘に言ってしまったことを思い出し、娘の心を傷つけたことに胸が痛んだ。

「あら、かわいいわね」と、なぜ言ってやれなかったんだろう。

ほんとうにごめんなさい。

   

 それから毎年、初夏の頃になると必ず、あの愛しい花を咲かせてくれる。

私の心無い言動をたしなめるかのように。

優しく、黙って、誠実に、そのれんな花を咲かせて。

   
   

※画像のサボテンは3週間ほど前に撮影したものです。
 今年は暖かかったためか、いつもより早めでした。

   

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