今の日本には、あらゆるジャンルの音楽、また世界中の音楽が溢れている。
日本で生まれる音楽にも様々なスタイルのものがあるが、当時は、アメリカからのジャズ、
そして「あかいーりんごに、くちびーるよーせーてー……」注1 から始まった、流行歌というような音楽が主だったと思う。
その中で、ラジオ歌謡というジャンルがあった。
演歌でもなく、流行歌とも少し違うような……。
私の耳に心地よく入ってきたのが
「きーしゃのーまどかーら、ハンケーチーふーれーばー、まーきばのおとめーが、はなたーばーなーげーるー……」注2
と始まる「高原列車は行く」という歌である。
明るくて軽快な歌だった。
そのほかに記憶に残っているのは「山のけむり」という歌だ。
これはちょっと物寂しいようなメロディーの曲だったが、
ラジオ歌謡というのは歌唱指導しながら毎日続けて流すので、覚えてしまうのだった。
「しろいはなーがさいーてたー……」注3 という「白い花の咲く頃」だったか、これもさんざん聞いたような気がする。
この中の「だまってうつむいてた、おさげがみ」注3 の、
お下げ髪というのはどんな髪型なのか、ずっと気になっていたものだ。
それから、「上海帰りのリル」だ。
この「リルーリルー、どこにいるのかリールー……だれかリールをしらないか」注4
という切ない歌詞とメロディーが、意味が分からないままに胸にしみた。
今この歌を歌ってみると、胸が苦しくて切なくて、涙が出てしまう。
あと、独特な声と歌い方で一世を風靡していたのが、笠置シズ子さんだ。
「トオキョブギウギ……ワクワク……」注5 と真似していた。
そして、「美空ひばりちゃん」という天才歌手がいた。
学校に行くと「ひばりちゃんはえらいんだよ」と、とても評判だったが、そのころはよく知らなかった。
今改めてひばりさんの歌を聞くと、こんなに歌が上手い人は、まずいないだろうなあと思う。
「いっぱいのーコーヒからー、ゆめのはなさくこともあるー」注6 とか、
「はーなかごかかえてー……アイルランドのむらむすめー」注7 とか、
快いメロディーの歌もよく耳に入ったが、どうやらこれらは、もっと古い歌らしい。
母が歌っていたのかもしれない。
記憶をたどるとき、いつも音楽がいっしょにくっついてくる。
注1「リンゴの唄」 作詞 サトウハチロー
注2「高原列車は行く」 作詞 丘灯至夫
注3「白い花の咲く頃」 作詞 寺尾智沙
注4「上海帰りのリル」 作詞 東条寿三郎
注5「東京ブギウギ」 作詞 鈴木勝
注6「一杯のコーヒーから」 作詞 藤浦洸
注7「アイルランドの娘」 作詞 H.RUBY 訳詞 島田磬也
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