自転車に乗って紙芝居屋さんがやってくる。拍子木を叩きながら来たことを知らせる。
そのころはあちこちにあった空き地や、時には道路の端に自転車を止める。
荷台には、紙芝居の入っている箱や紙芝居の枠、太鼓も積んでいた。
子どもたちが集まると、おじさんが紙芝居を読み始めるのだが、要所要所で太鼓を「ドンドンドンドン」と叩きながら、臨場感たっぷりに読み上げる。
めちゃくちゃうまいのである。講談師が、扇子で机を叩きながら熱演するのに似ている。

ただし、それを見るためには紙芝居屋さんが売るお菓子を買う必要があった。
「お菓子買った?」「買わない子は見ちゃダメだよ!」と、おじさんは厳しく監視。
私は、紙芝居のお菓子などの駄菓子を食べてはいけない、と母から言われていたのを正直に守っていた。
しかし紙芝居が見たいし、それよりあの駄菓子が食べてみたくてしかたなかった。
買った子は、これ見よがしに私の前で食べて見せた。
たとえば、小さめのアイスクリームのコーンのようなものの中に、赤い色をした水あめのようなものが入っており、割りばしのようなものでそれをかき回して食べている。
どんな味なのかなあと思いながら眺めていた。
一度お祭りか何かで紙芝居を見る機会があったが、その時は女の人と男の人の掛け合いだったような気がする。
紙芝居屋さんのより大掛かりだったが、やはり紙芝居屋さんの方が、なんというか雰囲気があり、魅力的だった。
お菓子を買わないので、遠くからとか、周りからちらちら見るしかなかったが。
今になってみると、あのとき思い切って駄菓子を買っておけばよかったと思う。そうすれば存分に楽しめたのになあと。
しかし、あの頃は親の言うことは絶対だったのだ。
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