第8話 チンドン屋

japanese street advertising幼児期

 チンドン屋さんというものがいた。

たぶん、商店などが大売出しをして、お客さんを集めるために宣伝をして歩くのがチンドン屋さんの仕事だった。
   

先頭の人は太鼓や鐘など、いわば小さな打楽器をコンパクトにいろいろくっつけて旗をたてたものを体の前にしょって叩いて歩く。

その後ろからクラリネットを吹きながら歩く人がいる。ほかにもいたかもしれないが、そうやって音楽を鳴らしながら道路を練り歩く。

   

 道路で遊んでいると、チンドン屋の音が聞こえた。

私より少し年上の女の子が「見に行こう」と言って走り出したので、ついていった。チンドン屋に追いつくと、ついて歩いた。

ほかにもついて歩く人たちがいた。

とても面白くて、未知の体験をしているわくわく感でどこまでもついて行った。

   

途中で、ずいぶん遠くへ来てしまったなという不安が頭をよぎったが、みんな一緒だから大丈夫だろうみたいな気持ちで、どんどんついて歩いた。

   

 知らない町の商店街に着くと、チンドン屋は一つの店に入り、その店の2階の窓から道路に向かってまた演奏を始めた。

道に集まった人たちは歓声を上げていた。

しかし「ここは全然知らないところだな、どうやって帰るんだろう」と今度は強烈な不安が込み上げてきた。

   

 とそのとき、私を誘った女の子が「帰ろう」と言って走り出した。

「帰り方知ってるの?」と思ったが、とにかく追っかけて走った。私がまだ幼くて速く走れないことなどお構いなしに、その女の子はどんどん走っていく。

遅れたら大変、帰れなくなっちゃうと思って必死でついて行った。

   

 走って走って、懸命に走って、死ぬかと思うぐらい走った。

ついに見慣れた家の近くまで来て、大急ぎで家に走り込んだ。
   

しかし母は「あら、どこに行ってたの?」といたって呑気だった。

私がこんな大冒険をしてきたのに……。

   

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