東京の学校に転校するにあたって、胸の中には固い決意があった。
東京の子どもたちに、地方から来た子どもということで、下に見られないように頑張ろう。
そして、絶対に関西弁は出さないようにしよう、と決心していた。
大人の言葉で言えば、見くびられてたまるか、というような気持である。
子ども心に、兵庫県より東京の方が上だと思っていたのであろう。
いよいよ学年が始まる始業式に、転校生として初登校する日がやってきた。
桜が咲いていた。
校庭で朝礼があり、教室に入ると先生が私をみんなに紹介した。
そして、「〇〇ちゃんの行っていた学校はどんな学校でしたか?」と聞かれた。
「この学校みたいに木造で古い学校じゃなくて、鉄筋コンクリートのきれいな学校でした」
と、今風に言うとKYな(空気を読めない)答えをした。
先生は「そうですか、でもこの学校は木造で古いけど、日本一の学校ですよ」
と、みんなの気持ちを思い遣ってフォローした。
何かが始まり、先生がみんなに質問をした。
私は勢いよく手を挙げた。
こんなことは今までになかったことだが、これも先に述べた決意によるものだ。
先生は転校生の私をすぐに指してくれた。
立ち上がって張り切って答えた。
すると先生は困ったような顔をして
「う~ん、それは〇〇じゃないかしら……」
(間違えちゃったのかな)とバツが悪い気持ちになったが、
先生はすぐに
「間違えてもいいから自ら進んで発言するのは、とてもいいことですよ」と言ってくれた。
休み時間になると、クラスのみんなが周りに集まってきた。
そして口々に
「家はどこ? えっ? あ、知ってる知ってる」とか
「名前の字は、どう書くの?」とか
「目が大きいね」とか話しかけてきた。
私はニコニコしていたように覚えている。たぶん嬉しかったのだろう。
こんなふうにして、意気揚揚と新しい学校生活を始めたのだった。
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