第35話 転校生

cherry blossoms 学童期(東京編)

   
 東京の学校に転校するにあたって、胸の中には固い決意があった。

東京の子どもたちに、地方から来た子どもということで、下に見られないようにがんろう。

そして、絶対に関西弁は出さないようにしよう、と決心していた。
   

大人の言葉で言えば、見くびられてたまるか、というような気持である。

子ども心に、兵庫県より東京の方が上だと思っていたのであろう。

   

 いよいよ学年が始まる始業式に、転校生として初登校する日がやってきた。

桜が咲いていた。

   

校庭で朝礼があり、教室に入ると先生が私をみんなに紹介した。

そして、「〇〇ちゃんの行っていた学校はどんな学校でしたか?」と聞かれた。

「この学校みたいに木造で古い学校じゃなくて、鉄筋コンクリートのきれいな学校でした」

と、今風いまふうに言うとKYな(空気を読めない)答えをした。
   

先生は「そうですか、でもこの学校は木造で古いけど、日本一の学校ですよ」

と、みんなの気持ちを思いってフォローした。

   

 何かが始まり、先生がみんなに質問をした。

私はいきおいよく手をげた。

こんなことは今までになかったことだが、これも先に述べた決意によるものだ。
   

手を挙げる子ども

   
先生は転校生の私をすぐにしてくれた。

立ち上がって張り切って答えた。

すると先生は困ったような顔をして

「う~ん、それは〇〇じゃないかしら……」
   

(間違えちゃったのかな)とバツが悪い気持ちになったが、

先生はすぐに

「間違えてもいいから自ら進んで発言するのは、とてもいいことですよ」と言ってくれた。

   

 休み時間になると、クラスのみんながまわりに集まってきた。

そして口々くちぐち

「家はどこ? えっ? あ、知ってる知ってる」とか

「名前の字は、どう書くの?」とか

「目が大きいね」とか話しかけてきた。

私はニコニコしていたように覚えている。たぶん嬉しかったのだろう。
   

こんなふうにして、意気いき揚揚ようようと新しい学校生活を始めたのだった。

   

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