第11話 大丸百貨店のエスカレーター

escalator 幼児期

    
 今はデパートと言うのが普通だが、当時は百貨店だった。

東京では日本橋の三越が老舗で有名だが、大丸が東京に出店した。

たしか、大丸は大阪の百貨店だったと思う。

   

 その大丸が、当時としては珍しいエスカレーターというものを導入したと聞き、新し物好きの母は、さっそく私と妹を連れて大丸に行ったのだ。

   

 いよいよエスカレーターなるものに乗ることになった。

そのころは、エスカレーターの乗り口の横に女の人が座って、運転というか、動きをコントロールしていた。

妹はまだ3歳、私は5歳だった。

   

 母は妹を真ん中にし、手をつないで3人横に並んで乗った。

母は端っこになった私に、ベルトにしっかりつかまるように言った。
   

ベルトにしっかりつかまったのだが、体がわきの壁の部分に押し付けられ

ベルトや階段部分が上へ上へと進むのに、私の体が残されていくような格好になってしまった。
   

ついに私は後ろに倒れ、続いて母も妹も倒れた。

母はなにか叫んだと思う。

   

そのとき下の乗り口にいた女の人が、咄嗟とっさにエスカレーターを止めてくれて、大事に至らなかったが、ほんとに恐ろしい体験だった。

今だったら、そういう係の人はいないわけだから、同じことが起こったら大変なことになるだろう。
   

 母はことの顛末てんまつを父に報告し、この事故の原因は、私が鈍くさかったから、ということになったようだ。

そうなんだろうか。

   

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