第12話 豊島園のウォーターシュート

merry-go-round幼児期

 父は休みの日になると、家族でどこかへ出かけたがった。そんな時、豊島園に行くことが多かった。
   

お出かけの日は、母が私の髪の毛の両脇をゴムで結んで、白いリボンをつけてくれた。

玄関の上がり口に座って靴を履くために前にかがむと、結んだ左右の髪の毛が、リボンと一緒に顔の両脇にかぶさってくる。

そうすると、少しお姉さんになったような気がしたものだ。

   

 当時、豊島園のウォーターシュートが人気だった。今でいえば、さしずめディズニーランドのアトラクションのようなものだ。
   

高いところから滑り台のようなところをボートが勢いよく滑り降り、猛烈な水しぶきをあげて下の池に着水する。

ボートのさきにお兄さんが長い棒を持って立っていて、着水するときに飛び上がる。
   

このお兄さんが何のために長い棒を持って立っているのかよくわからなかったが、今考えると、着水した後、ボートを岸につけるためにいだのかもしれない。
   

昭和31年 ご家族で豊島園に行かれたときの映像だそうです。※ウォーターシュートは 2:09 あたりから……

   

父よりむしろ母の方が冒険好きで、そのウォーターシュートに、まだ3歳になったかならないかの妹も一緒に乗ることになった。

母は妹に、前の手すりにつかまらせ、手を離さないように言い聞かせた。

   

 いよいよボートが滑り始め、あっという間に池にボッチャーン!と落っこちた。

ものすごい水しぶきで一瞬前が見えなくなったが、舳先のお兄さんが飛び上がったのが見え「すごいなー!」と感動した。
   

母も大喜びだったが、なんと妹が、着水の衝撃で前の手すりに、おでこをぶつけたのだ。

両親は「あらあら、ぶつけちゃって」と笑いながら、大したことだと思っていなかったようだったが、たぶん痛かったと思う。

   

 今でもウォーターシュートはあるのだろうか。

豊島園ももうすぐ閉園すると聞いた。70年前の懐かしい光景が瞼にひろがる。

   

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