学生時代、夏山でのスキー合宿を終えての帰り、上野に向かう汽車の中で同期の男子と話していた。
「楽しかったなあ」
「これでうちに帰ると途端に機嫌悪くならない?」
「なるなる。それでご飯のおかずが気に入らなかったら、もう最悪だよな」
この件で意気投合できる人が身近にいたんだ。
私は小さいときから場面の転換にすばやく順応することができず、すぐ泣いたり、ぐずったりしていた。
叔母の結婚式の時もそうだった。
また、本に読みふけっていて不意に夕飯に呼ばれると、行くには行くが、泣きながら食べる。
周りの大人たちは
「どうしたんだろうね」
「きっと本が可哀そうな話だったんじゃない?」
と勝手な結論を出していた。
違うんだけど、説明できなかった。
映画「菩提樹」を見た後もそうだった。
その世界に浸っていて、すぐには日常に戻れない。
しかし、みなは晴れ晴れとした顔で「さあ、なんか食べよう」と言っている。
えらく不機嫌になってしまった私を見て、
やはり周りの大人は、
「映画館の空気が悪かったから、頭が痛くなったんじゃないの?」
といいかげんな結論を出していた。
そんなある日、テレビで赤毛のアンのアニメを見ていたときのことだ。
アンと友だちはお芝居か何かを見て、とても楽しかったはずなのに、なぜか気持ちが沈んでしまう。
そのとき一緒だったおばあさんだったかが
「若いころはみんなそんなもんよ。アイスクリームでも食べればすぐ治るわ」と言ったのだ。
私だけじゃないんだ。
私のこの、自分の感情をうまくコントロールできずに不機嫌になったり、
泣いたり怒ったりするのを、
まわりの大人で理解してくれた人は全然いなかった。
なんとなく気難しくて、かわいくない子どもという扱いになっていた。
自分の性格が悪いのだと思っていたのだが、
いや、そうではないんだとわかり、嬉しかった。
こんな子どもは、きっとどこにでもいると思う。
そんなとき、泣いたり怒ったりするのを叱ったりせずに、気持ちが戻るのをそっと待ってあげつつ、
それこそアイスクリームでも食べさせてあげればいいと思う。
大人になると、こういうことはだんだんなくなって、
今ではスムーズにもとの世界に戻って行けるようになった。
不思議なものだ。
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