第81話 また忘れたの?

Group photo 思春期

   
 小学生のときだ。

学校から家に向かう道を、ハアハア言いながら走っていた。

忘れたじょうを取りに戻るために。

   

 忘れ物をしない日は、ほとんどなかった。

学習に必要な道具、宿題、持っていくお金などなど。
   

当時、忘れ物をすると家まで取りに行かされたと記憶していたが、よく考えてみると、そんなに毎日のように家に戻ったというわけでもない。

おそらくあまりにも忘れ物をするので先生が頭にきて、取りに帰れと言ったのかもしれない。
   

走りながら、考えていた。

「どうして忘れちゃうんだろう? 絶対に忘れない、と決心したはずなのに……」

   

 中学生になっても、しょっちゅう忘れ物をした。

学校に定期を忘れ、バスの車掌しゃしょうさんに(そのころはバスに車掌さんが乗っていた)許してもらって、ただ乗りしたこともある。

   

 一番苦々にがにがしい思い出は、卒業写真を撮ったときのことだ。

撮影したのは、まだ夏の制服を着ていた9月だった。

卒業写真だから冬の制服の上着を持ってくるように、と念を押されていた。

   

私も、絶対に忘れてはならない、明日は写真を撮るから上着を忘れないようにしなきゃと思って寝たのだが、

家を出るときにはなぜか頭から消えていた。

学校に着いてから、忘れたことに気がついた。

さすがに血の気が引いた。

   

結局、私だけ上着なしで写っている。
   

夏服の女子学生

   

全学年が集まって、俯瞰ふかんで撮った感じの写真だが、一人だけ上着なしの子がいる。

自分にけんかんを抱いてしまう。

    
   

 ちなみに大人になって直ったのか、というと、残念ながら続いている。

財布を忘れ、交番で1,000円貸してもらったことが2度ある。

傘わすれは数えきれない。
   

そのほか、時間になったら電話するとか、時間になったら薬を飲むとか、そういうことが一番忘れやすい。

「○○持ってきた?」

「あ、忘れちゃった、ごめん」も繰り返している。
   

職場で、何かの食べ物を「帰るときに持って帰ろう、でもきっと忘れるぞ」と思いつつ冷蔵庫に入れる。

あんじょう忘れた。

   

 それでも今の方が、忘れてはならないものを忘れることが減ったように思う。

自分は必ず忘れるということを自覚して、多少は対策をするようになったからだ。

紙に赤で大きく描いて机の上に置いておくとか、

マスクはカバンの上に置いておくとか、

「私は絶対に忘れるから、時間になったら声かけてね」と隣のどうりょうに頼んでおくとか。

たくさんの人の情けによって、なんとか無事にここまで来た。

   

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