第57話 新宿「末廣亭」

vaudeville学童期(東京編)

 私は小さいころから人を笑わせるのが好きだった。

「優しい人」とか「かわいい人」と言われるより、「おもしろい人」と言われるのが一番うれしかった。

   

 まだ兵庫県の母の里にいたころ、母の弟が西宮球場でアルバイトをしており、その関係で、夏休みに球場で行われるイベントのチケットを貰ってきた。
   

祖母らに連れられて見に行った。中身はほとんど忘れたが、覚えているのが花火と、ミスワカサ・島ひろしの漫才だ。

初めて見た仕掛け花火のすばらしさは今でも目に浮かぶが、それより印象に残ったのが漫才だった。

   

ミスワカサがものすごく早口で、今で言うところの突っ込みをかけるのが面白くて大笑いした。世の中にこんな面白いものがあるんだなあと思った。

それ以来、落語や漫才が好きになり、ラジオでよく聞いていた。

   

 ある正月に、父が新宿の「末廣亭」に連れて行ってくれるということになった。

席はマス席で、母が持ってきたキャンディーの入った丸い缶を股の間に置いて、はなはだ行儀の悪い格好で畳に座って聞いた。

   

柳亭痴楽のラブレターという落語の中で「変しい変しい〇〇子さん」と、恋しいの漢字を間違えて変しいと書いたというくだりを聞いては笑い、誰の落語だったか忘れたが、長屋の大家さんに俳句を教わるというところの、「くちなしや、鼻から下はすぐ顎よ」、で笑い転げた。

   

いつまでもおかしくておかしくて笑いが止まらず、みんなが静かになっても、くすくす笑っていた。 

キャンディーを食べながら落語を聞いたあの瞬間は、至福の時であった。

 そんなわけで、今でもお笑いが大好きである。

   

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