中学から高校にかけて、映画が大好きだった。
「映画の友」という雑誌を毎月買って、隅から隅まで読んだ。中学の頃は、特に西部劇が好きだった。
ただし、西部劇ではインディアンが常に悪者にされているのが、ちょっと気になるところだが。
何を一番に挙げる? と言われれば、「大いなる西部」だ。
もう少し前の世代の人は「真昼の決闘」や「荒野の決闘」を挙げるかもしれない。
「大いなる西部」は、始まるときのタイトル画面いっぱいに映しだされた、ぐるぐる回転する馬車の車輪と、そこにかぶさってくる勇壮で躍動的な音楽に胸を躍らせた。
チャールトン・ヘストンやグレゴリー・ペック、キャロル・ベイカー、ジーン・シモンズ、チャック・コナーズ……、そうそうたるメンバーが出演していた。
当時テレビで、古い古い洋画を放映する「テレビ名画座」という番組があった。
1週間同じ作品を放送する。悠長な時代だったのだなあ。
映画大好きの母と一緒に見た。NHKでも昔の名画を映すことがよくあった。
その中で思い出すのは、「どん底」「天井桟敷の人々」「三文オペラ」「シー・ホーク」「北ホテル」「カーネギー・ホール」「ミラノの奇蹟」「美女と野獣」「ノートルダムのせむし男」……
最も魅せられたのが「アメリカ交響楽」という、ガーシュウィンの生涯を描いた映画だ。
有名なピアニストのオスカー・レバントが自身の役で登場し、素晴らしいピアノ演奏を聴かせる。出てくる音楽のどれもが素敵で、とても贅沢な映画だったと思う。
ある夏休みに、話題になっていた「第三の男」という文庫本を買った。読んでみると、どんどん引き込まれ、めちゃくちゃ面白かった。
この映画もテレビで見た。
タイトル画面に、ツィターの弦がはじかれて動くのが大写しになり、そこに、かの有名なテーマ曲が流れる。それだけでわくわくした。

この映画のカメラワークや演出は、ほんとに素晴らしかった。
オーソン・ウェルズ演じる、死んだはずのハリーが生きていた! という名場面。
一匹の猫が歩いていく。
その先に男の足下が見える。
靴がアップになり、そこに猫がのっかる。
ジョゼフ・コットン演じるホリーの声が響き、窓の明かりがついた次の瞬間、オーソン・ウェルズの素敵な横顔が現れる。
心臓がドキッとするような小気味よい映像だ。
そして最後の場面。
ハリーの葬儀が終わり、ホリーは墓場近くの道の傍らで、ハリーの恋人だったアンナを待っている。
すると、アリダ・ヴァリ演じるアンナがやってくる。
彼女はホリーに一瞥もくれず毅然として前を向き、通り過ぎていく。アリダ・ヴァリの理知的で美しい横顔、ちょっと間の抜けた感じのジョゼフ・コットン。
ここは原作とは異なっている。
原作ではこの二人が、なにかしら心を通わせることを示唆しているが、演出家はアンナの心をもっと深く読みとったのだろう。
たくさんの映画を見た中で、思春期の私の心をいっぱいにしたのはジェームズ・ディーンの「エデンの東」だが、この「第三の男」は映像のプロフェッショナルが作った、映画の中の映画じゃないかと思う。
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