夏休みに植物採集の宿題が出た。
「いやだなあ」
このように、一回の作業では終わらない、何段階もの作業があるものは大の苦手。
めんどくさくて、やる気がしない。
先生は「夏休みにどこかへ行くでしょう。ぜひ、そこの植物を採集してください」と言ったので、
そんな計画もなかった私は憂鬱だった。
ずっとほったらかしていた。
友だちから来た暑中見舞いの葉書には、「〇〇の祖母のところに行った時に採集しました」と書いてあった。
登校日に、軽井沢の植物を集めたという話や、信州の父の実家に行って採集した、
などの話が聞こえてきて、ますます憂鬱になった。
いよいよ期日も迫り、採集した植物を1週間ほど押し葉にする必要があるが、その日数もなくなってきた。
どこで植物採集したらいいんだよ、とブーブー言っていると、
母が「深大寺にでも行ったら?」と言った。
「深大寺」は、電車を使えばうちから1時間もかからないところにある、けっこう有名なお寺だが、まだ行ったことがなかった。
そこに行けば、いろいろな植物が生えているのかと思い、めんどくさがる母をせっついて、一緒に深大寺へ向かった。
神代植物公園ができる前のことだ。
行ってみると、採集できるような植物がある場所でもなく、「ないじゃない」と不機嫌になりながら歩いた。
「その辺の草を採ったら?」と母が言ったので、道端やその辺の草を引き抜いて帰ってきた。
それを新聞紙に挟んで、一応押し葉にしている体裁をとった。
数日すると、かさかさになり、それらしくなった。
台紙に貼り付けようというときになって、あれ? 草の名前書かなきゃいけないじゃん、と気づいた。
ああなんてこったと思いつつ、一番安い植物辞典を買って調べたが、同じものが見当たらない。
「これに似ているから、これにしておこう」と適当に名前を書いて、何枚かのお粗末なものを重ね、表紙をつけた。
さて、題名をどうしよう。
みんなは「〇〇の植物」と立派な名前をつけているようだ。
またブーブー言っていると、母が、「路傍の植物にしといたら?」と言ったので、それを採用し「路傍の植物」と書いて提出した。
意外にも、この題名が先生の目に留まり、「路傍の植物かあ、いいねえ」と言った。
ウフフと思った。
深大寺 https://www.jindaiji.or.jp/
神代植物公園 https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/
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