第59話 母の特大おいなりさん

inarizushi 学童期(東京編)

   

 母は、以前「引っ越し」で書いたように、かなりアクティブな人だった。

また、自分流のやり方というものに絶大な自信を持っており、「上等舶来珍無類」と称し自画自賛していた。

    

 母の得意料理に、おいなりさんがある。

普通のおいなりさんと違って、煮つけたお揚げを半分にしたものを裏返して、そこにすし飯をパンパンに詰め込む。

すし飯の中には、しいたけ、レンコン、ちりめんじゃこ、生姜など、そのほかにも何か入っていたが、いろいろなものが入っている。
   

それを一個食べるだけで、お昼ごはんになりそうな代物だった。

私は冷蔵庫で一晩寝かせたものをお茶碗に入れて崩し、そこにお茶をかけて食べるのが好きだった。

   

 あるとき台風が来て大雨が降り、私が住んでいた地域の方でも土地の低いところは浸水した。

うちは幸い高いところにあったので免れたが、クラスメイトの中には、この水害に見舞われたお宅が何軒かあった。
   

台風一過の朝、それはちょうど日曜日だったのだが、

母は張り切っておいなりさんをどっさり作り、それを自転車に積んで、被害に遭った友だちの家やその周辺を私と一緒に回ったのだ。

床上浸水したお宅もあり、畳を外に出して干したりして、とても大変そうだった。

母のおいなりさんは、かなり喜ばれた。
   

 母は()うに亡くなったが、あのおいなりさんのつくり方を教わらなかったのが残念だ。

   

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