6年生の冬休み、「菩提樹」という映画を見に行った。
今ではサウンド・オブ・ミュージックの方が有名になってしまっているが、
そのトラップ・ファミリー合唱団のことを映画化したもので、ドイツ映画だった。
トラップ一家がナチスの手を逃れて、アメリカに到着するまでを描いたものだ。
修道女のマリアが、母を失った子どもたちの教育係としてやってくるところから始まる。
マリアは、修道女の服を着て階段の手すりを滑って降りてくるような、とても魅力的な女性だ。
委縮していて暗い感じだった子どもたちが、
マリアによってどんどん明るく活発になっていき、彼女の弾くギターで歌をうたうようになる。
やがてマリアはトラップと結婚し、子どもたちのお母さんになるのだった。
この映画は、何といっても全編に流れる美しい曲の数々が魅力で、
トラップ一家のコーラスは、レーゲンスブルク大聖堂の少年合唱団が吹き替えで歌っており、
素晴らしい歌声だった。
出ている子どもたちも、うっとりするほどみな可愛かった。
トラップ合唱隊は、ザルツブルグの合唱コンクールに出場し優勝する。
彼らが歌った歌の中で、シューベルトの「菩提樹」がとりわけ美しく、
字幕に出る日本語の訳がまた美しく(あれは名訳だと思う)、
字幕を見つつコーラスを聴き、感動した。
泉にそひて、繁る菩提樹、慕ひ往きては、
美し夢みつ、幹には彫(ゑ)りぬ、ゆかし言葉、
嬉悲(うれしかなし)に、訪ひしそのかげ。注
「菩提樹」の世界にどっぷりつかって、いつまでもその余韻に浸っていたい気持ちだった。
映画が終わって外に出ると、大人たちが
「さあ、何か食べに行こう。なに食べる?」と聞いてきた。
こんな素敵な映画を見た後で、すぐそんな気持ちになれるのか、とそれについていけなかったことを思い出す。
注 作詞 ヴィルヘルム・ミュラー 訳詞 近藤 朔風(さくふう)
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