転居した土地で、役所、郵便局、スーパーなどなど、生活上必要な場所を覚えていく必要がある。
その中で、用さえ足りればなんでもいい、というわけにはいかないのが、歯医者と美容院ではないか。
歯医者はともかくとして、とりあえず美容院はどこに行ったらいいのか困っていた。髪の毛が伸びて、ボーボーになっているのだ。
私が住む村に、そもそも美容院というものを見かけない。
そこで、同じ移住者の先輩に聞いてみた。
「美容院は、どこに行ってるんですか?」
「うちは千円カットよ」と答えが返ってきた。

車で30分ほどの町にあるそうだ。
その方の髪型を拝見すると、ちゃんとまとまっている。これで十分かも、と思った。
シャンプーなんか自分でやっとけばいいし、パーマはかけない、カラーもしない。
教わったところに行ってみる。
店の看板に、「おひとり様15分」と書いてあった。
入り口に券売機のようなものがあり、「1,200円入れてボタンを押してください」とある。
1,200円?
1,000円じゃないじゃん、とちょっと失望したが、まあ仕方がない。
お金を入れてボタンを押すと、カードが出てきた。
そのカードを持って店内に入り、空いている席に座る。椅子には番号が振ってある。
店内は、なかなかきれいで清潔感がある。
「初めてなんですけど……」と言うと、「カットしかできませんけど……」と言われた。
お客さんは、中年男性一人と、30代ぐらいの女性が一人いた。
番号を呼ばれて、いよいよカット開始。
「どうしますか?」と一般の美容院と同じように聞いてくれる。
「後ろと横が伸びちゃってるんで、すっきりさせたいんですけど」
「横は、後ろに流す感じでいいですか?」
「はい、それでお願いします。前髪は短いので、このままでいいです」
「後ろの、少し重たくなってるところは、軽くしますか?」
「はい」と、丁寧にやり取りしてくれた。
前面の鏡の下に、張り紙がある。
・ジェルやワックスで固めた髪は、カットできません。
・剃りを入れるなどの特殊な髪型、奇抜な髪型は、お断りしています。

・お客様が自分でバリカンをかけるのは、お断りしています。
(えっ? 自分でバリカンかける人がいるんだ)
・切り直しは、できませんのでご了承ください。(切り直しって?)
・椅子の上に自力で静止できない方は、お断りしています。(なるほど)
メモしたわけではないので、正確には覚えていないが、上記のようなことやそのほかにも、いろいろ注意書きがしてあった。
ここでは、ごく基本的なカットをしてもらうのが一番喜ばれるのだなと理解した。
私の髪型は、パーマ無しのショートで、とてもシンプル。したがって、それに当てはまると思った。
一つ、気になっていることがある。
私の髪は、横と後ろは伸びているのに、前髪は、手術以来まったく伸びない。
なぜ?
以前、東京の美容院で聞いた。
すると、「手術とか事故とかストレスとかで体がダメージを受けると、2か月ぐらいたってから髪が抜けたり円形脱毛症になったり、影響が出てくることが多いです」とのこと。
でも、もう半年になるのに、まだ手術の影響があるんかいな。前髪が伸びないと、なんか格好がつかない。
1,000円カットの美容師さんにも聞いてみると、「そういう人いますよ」と珍しいことではなさそうだった。
カットが終わると、上の方から、グイーンと象の鼻のようなものを下ろして、円形のブラシになっている吸い取り口で、ワサワサワサと髪の毛の裾の方をかき回して髪の毛のくずを吸い取った。
これはちょっと驚くが、まあ、こんなもんなんだろうと受け入れた。
ブラシで整えたあと、鏡で後ろ髪を映してくれたが、いちおう美容院でカットしました風になっている。これならいいかも、と思った。
終わったら、「ありがとうございました」の一言を聞くだけで、そのまま帰っていい。
1,200円はそんなに安くないとも思ったが、今まではシャンプー・カットで6,600円も払っていたんだから満足しよう。
余談だが、夫に前髪が伸びないことを伝えると、「ということは、真ん中が禿げてくるってことか」と言う。

えっ!
おじいさんならそういう頭をしている人がいるけど、おばあさんでそういう人は見たことはないけどなあ。
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