第86話 初めてのスキー

skovla 思春期

 子どもの頃、寝るときに、母に何かお話してと頼んだことがある。

すると、娘時代に弟と一緒に、父親にスキーに連れて行ってもらった話をしてくれた。
   

「坂道を下っていくときにね、『たにあし、たにあしー。たにあしに体重かけるんだよー』って、お父さんが大きな声で言うんだけど、谷足に体重かけるのはこわいのよ。」

   

 谷足というのは斜面を横切るようにしたとき、低くなっているほうの足なので、そっちに体重をかけるのはこわいんだけど、そうしないと転んじゃうんだと。

スキーはとても楽しかったと。
   

 古いアルバムにその頃のスキー姿が写っている。ニッカボッカのようなズボンをはき、帽子をかぶり、昔の無声映画の1シーンのような写真だ。

   

 私もしてみたいなあと思っていたが、父がスキーをしたことがないために、それが叶わなかった。

   

 高校1年生でそのチャンスがきた。入学試験を行うための試験休みに、スキー教室が開かれたのだ。

 道具は持っていなかったので、知り合いの人にスキー靴を借り、板は現地で借りることにした。
   

 当時、スキー靴は革で、今のようなプラスティックの靴など想像だにできなかった。

靴を板につけるためのビンディングは、カンダハーと呼ばれて、蝶番のようなものをガッチャンと前に押し倒す形式のものだ。

   

 スキー教室の結果はさんざんだった。

   

スキーで転ぶ

   

 まず、借りた板にはエッジがなく、つるんつるんで頼りなかった。

それに、コーチの言うことや、やって見せてくれたフォームなどを正しく理解できていなかったようだ。

その結果、今思うと、そっくり返ったようなフォームで滑っていたらしく、すぐ転んでしまう。何回転んだかわからない。
   

担任は体育の先生だったが、「○○さん、何回転んだ?」と面白そうに話しかけてきたほどだ。

 自分がうまく滑れなかったのは、道具が悪かったからだと思っていた。

   

 翌年の冬、友だち同士でスキーに行こうという計画が進み、スキー道具を一式そろえてもらうことになった。

 父が協力的で会社の車を回してくれ、母と一緒に買いに行った。人生で一番うれしかった買い物だ。

運転手さんは雪国の人で、スキーをよく知っていた。「いいの買ってもらいましたね」と言ってくれた。

   

 行ったのは新潟の石打丸山スキー場だ。

そこで初めてスキーの楽しさがわかった。前傾姿勢をとって、転ばずに滑っていくコツがわかり、その快さを味わった。

うまく滑れなかったのは道具のせいじゃなかったのかも。
   

 この経験が、後に学生時代のスキーに明け暮れる生活へとつながることになる。

   

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