当時、お便所に落ちたという話が、ちょくちょく聞かれた。
もちろん、そのころのトイレと言えば和式でくみ取り便所、いわゆるボットン便所だ。
父の実家の隣に私より一つ年下の女の子がいて、その子が小さいとき、お便所に落ちたという話を聞いた。
えっ!
あんなところに落ちるなんて、なんて怖いことと思った。
お母さんが汲み取り口から入り、すくい上げたという。
洗っても洗っても、なかなか臭いが抜けなかったのよ、と笑い話のように話していた。
当の本人は、そのことを覚えていないらしかった。
覚えていなくてよかったよねと思った。
小さいころは、お便所と言えばしゃがんでやるもの、隅には箱が置いてあり、中にチリ紙が入っていた。
今のティッシュのように薄くて柔らかいものとはほど遠く、グレーがかった、少しざらざらして、しわしわしたような紙だ。
便器の脇の床に、おしっこを引っかけるということがよく問題になった。
私は引っかける方だった。
引っかけないようにしなさいと言われたが、どうすれば引っかけないで済むのかが分からなかった。
父方の祖母は洋式便器を使っていたが、水洗ではなかった。
このように、便器は洋式だがボットン便所、というのもあったのだ。
水洗便所が一般家庭に普及したのは、かなり後のことである。
今は洋式便器で水洗がほぼ当たり前で、ウォシュレットなるものも、かなり普通になっている。
文明の進み具合と、トイレの進化は比例しているようだ。
国土交通省 下水道資料室「普及率等の推移」
https://www.mlit.go.jp/crd/city/sewerage/data/fukyuritu.html
東京都下水道局「数字でみる東京の下水道」
https://www.gesui.metro.tokyo.lg.jp/business/kanko/kankou/2014tokyo/05/index.html
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