バレンタインデーに女性から男性にチョコレートを贈るという習慣は、いつからできたのだろう。
少なくとも私たちが高校生の頃は、なかった。
バレンタインデーは、好きな人にその気持ちを表す日で、カードを送ったりプレゼントをしたりする。
この日に限っては女性から男性に告白してもいい、という共通認識だったと思う。
高校1年生のとき、友だちにつきあってジャズ研(ジャズ研究会)が練習している部屋に遊びに行ったことがある。
ジャズ研といっても、ほんの数人しかいなくてジャズの定番「モーニン」を練習していた。
その友だちは歌がとても上手で、声楽を本格的に習っていた。
文化祭で独唱したりしていたので、かなり有名な存在だった。
それもあってか、私たちが行くと練習をやめておしゃべりを始めた。
そこに、やはりジャズ研ではないけど遊びに来ていた1級上の男子がいた。
その男子は私の友だちと楽しそうに話していたが、それを傍で見ていて、ちょっとタイプだなと思っていた。
普段、物理室に移動するとき1級上の教室の前を通るのだが、なんとなく教室の中を見ると、先日のあの男子がいた。
こっちを見て会釈をしたので、私もしておいた。
そんな目と目のやり取りが何回か続いた。
当時、国語の先生がフォークダンスを奨励しており、毎日昼休みになると、屋上で音楽をかけて行われた。
やりたい人が勝手に行ってやっていた。
フォークダンスといえば、一般的に輪になって踊るが、パーソナルダンスというものがあり、それは二人で踊るのだった。
パーソナルダンスが始まると男子は適当に女子を誘うのだが、女子の方はたいてい誘われるのを待っていた。
あの上級生の男子も来ており、待っている私を誘ってくれた。
こんな風にして彼と何回もフォークダンスをした。
ある日、何がきっかけか忘れたが、彼と二人きりで書道室という畳の部屋で長々と話をしたのだ。
用務員のおじさんが見回りに来て、「早く帰れ」と声をかけてくるまで話していた。
そしてバレンタインデーの日、帰ろうとして下駄箱を開けると、カードが入っていた。
私はハッとして周りを見回し、誰も見ていないことを確認してカバンに入れた。
彼からのバレンタインカードだった。
今で言うところの「彼氏」というものが初めてできたときのお話でした。
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