第90話 「北海道」続編・・・新しいボーイフレンド

Chocolate Lily思春期

 修学旅行と言えば、史跡を巡ったり、その土地の文化に触れたりが目的という建前で行われると思うが、私たちの北海道行きは、そういう要素がほとんどなかったような気がする。

とにかくバスで移動している時間が長かった。

   

 バスの中で、男子はトランプに興じていた。

 ガイドさんが「右手をご覧ください」と話し始めると、「おい、誰か代表で見ろ!」とボス格の男子が命令していた。

ガイドさんが、北海道に生息するクロユリの話をして、「くーろゆりーは~こいのはなー・・注1 と、どすの利いた声で歌ったのが印象に残っている。

   

 オホーツク海に行ったときは、友だちの一人が「しれーとこーのみさーきにー、はまなすーのさくーころー・・注2 と歌っていたのが印象に残っている。

彼女は山岳部に所属していて、そこでよく歌っていたらしい。
   

知床旅情 森繁久弥

   

 北海道には五稜郭ごりょうかくとかトラピスト修道院とか、見るべきものがいろいろあると思うが、それらの記憶がほとんどないのはどうしてだろう。

覚えているのは、湖のことだ。

   

 北海道にはきれいな湖がたくさんある。
   

Lake Kussharo

   
湖巡りと言ってもいいような旅だった。
屈斜路くっしゃろ湖」の脇を通ったときは、「神秘的で雰囲気のある湖だな」と思った。
   

「ペンケトー、パンケトー」という二つの湖は、上から見下ろしただけだったが、「なんてきれいな湖!」と思った。

   

しかし、この旅行の本当の目玉は、湖で休憩したり、近くに宿泊したときに、男女でボートに乗ることだった。
   

手漕ぎボート

   
 それで、あの人とあの人がそうだったのか、とわかったり、ここでカップルが誕生することもあった。

   

 当時、私たちの学校では、いわゆる「彼女」「彼氏」のことを「ナニ(・・)」と言っていた。「あの人、○○さんのナニ(・・)なんだって」というぐあいだ。

   

 一番目の湖は七飯(ななえ)(ちょう)の「大沼」だった。

私のナニ(・・)上級生だから、ここにはいない。

それで女の子同士でボートに乗った。けっこう楽しかった。

とはいえ、カップルでボートに乗っている人たちが羨ましかった。
つまんないなあと思っていた。

   

 「阿寒あかん湖」に宿泊したときだ。
   

阿寒湖

   
みんな、マリモより、ボートに夢中だった。

そんな様子を眺めていると、意外にも同級の男子がボートに誘ってくれた。
ハンドボール部の、明るくて屈託がなく、優しい子だった。

 嬉しくて、いそいそとボートに乗り、おしゃべりをしながら楽しく過ごした。

   

 「洞爺とうや湖」に宿泊した夜に、キャンプファイヤーが行われた。お定まりのフォークダンスがあり、男子の輪と女子の輪がすれ違って相手が変わっていく。
   

キャンプファイヤー

   
 例の彼が、私のところに回ってきたところで「抜けよう」と言った。
二人で輪を抜けて、近くの草むらに腰を下ろした。
   

辺りを見回すと、同じようなカップルがあちらこちらに座っていた。
「みんな同じようなことしてるんだなあ」とおかしくなった。

先生の一人が走って見回りに来たが、特に注意されることはなかった。

   

 話しながら、彼はたびたび「寒くない?」と聞いた。
私は聞かれるたびに「寒くない」と答えた。

後になって、あの時「寒い」と言ったらどうなっていたのかなと思った。

   

 こんな風にして、私はその子と仲良しになった。
上級生の方のナニ(・・)はどうするんかい?というようなことはあまり考えなかった。

上級生だったから、下級生の女の子が自分に気があるみたいだから相手をしてやった、ぐらいだったのかもしれない。

私もだんだん興味が薄れ、自然消滅した。

   

 帰りの青函連絡船では、甲板から海を眺めていた。

今度は青森から夜行で上野に帰るのだった。上野に近づいたとき、汽車の中で彼が撮ってくれた写真があるが、疲れ切った顔をしている。
   

注1 「黒百合の歌」 作詞 菊田 一夫
注2 「知床旅情」 作詞 森繫 久彌
   

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