1964年10月10日、東京四谷駅の近くの土手の上に立っていた。
大学の部活のトレーニング姿だったと思う。
晴れ渡った秋空に、五輪のマークが描かれていくのを見ていた。
「始まったんだ!」
日本国民が喜びに沸いた、オリンピックが。
思い出は、そこから8年前に戻る。
小学5年生だった私は、学校からの帰り、知り合いのお兄さんの自転車の後ろに乗っていた。
お兄さんといっても、NHKにお勤めの若い男の人だったけれど。
なにかの用事で学校に来ていたので、「送ってあげるよ」と、自転車の後ろに乗せてくれたのだ。
心地よい風を受けながら、自転車は走って行く。
すると、お兄さんは言った。
「8年後に東京でオリンピックをやるんだよ」
「えっ!ほんと?」
すごい、と思った。
「そのとき、〇〇ちゃんは大学生だね」
「え~? 大学生になるかなあ?」
「きっとなるよ」
当時、大学に行く女性はもちろんいたが、自分が行くとは思っていなかった。
大学に行く女の人は、特別な人だと思っていたのだ。
この歳になると、8年なんてあっという間だ。
しかし、小学5年生からの8年間はとても長く、変化が大きく、様々なことがあった。
そして、曲がりなりにも大学生になった。
最近も、あの東京オリンピックのことがテレビでよく取り上げられる。
胸躍るような古関裕而のオリンピックマーチを聞くたびに、込み上げるものがある。
あの頃、今の世の中を想像できただろうか。
このとんでもない状況を。
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