第88話 バレンタインデー

Bouquet of hearts 思春期

   
 バレンタインデーに女性から男性にチョコレートを贈るという習慣は、いつからできたのだろう。

少なくとも私たちが高校生の頃は、なかった。
   

バレンタインデーは、好きな人にその気持ちを表す日で、カードを送ったりプレゼントをしたりする。

この日に限っては女性から男性に告白してもいい、という共通認識だったと思う。

   
   

 高校1年生のとき、友だちにつきあってジャズ研(ジャズ研究会)が練習している部屋に遊びに行ったことがある。

ジャズ研といっても、ほんの数人しかいなくてジャズの定番「モーニン」を練習していた。
   

その友だちは歌がとても上手で、声楽を本格的に習っていた。

文化祭で独唱したりしていたので、かなり有名な存在だった。

それもあってか、私たちが行くと練習をやめておしゃべりを始めた。

   

 そこに、やはりジャズ研ではないけど遊びに来ていた1級上の男子がいた。

その男子は私の友だちと楽しそうに話していたが、それを傍で見ていて、ちょっとタイプだなと思っていた。

   

 普段、物理室に移動するとき1級上の教室の前を通るのだが、なんとなく教室の中を見ると、先日のあの男子がいた。

こっちを見てしゃくをしたので、私もしておいた。

そんな目と目のやり取りが何回か続いた。

   

恋する高校生

   

 当時、国語の先生がフォークダンスを奨励しょうれいしており、毎日昼休みになると、屋上で音楽をかけて行われた。

やりたい人が勝手に行ってやっていた。
   

フォークダンスといえば、一般的に輪になって踊るが、パーソナルダンスというものがあり、それは二人で踊るのだった。

パーソナルダンスが始まると男子は適当に女子を誘うのだが、女子の方はたいてい誘われるのを待っていた。

あの上級生の男子も来ており、待っている私を誘ってくれた。

   

 こんな風にして彼と何回もフォークダンスをした。

ある日、何がきっかけか忘れたが、彼と二人きりで書道室という畳の部屋で長々と話をしたのだ。

用務員のおじさんが見回りに来て、「早く帰れ」と声をかけてくるまで話していた。

   

 そしてバレンタインデーの日、帰ろうとして下駄箱を開けると、カードが入っていた。

私はハッとして周りを見回し、誰も見ていないことを確認してカバンに入れた。

彼からのバレンタインカードだった。

今で言うところの「彼氏」というものが初めてできたときのお話でした。

   

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