クリスマス・イブに心臓手術 その3 うるさいICU

Johann Pachelbel 心臓の手術

「パッへルベルのカノン」の力

ICUは刺激が多い

 ICU(集中治療室)というところは、実にうるさくて刺激の多い部屋だ。

いろいろな機械音、ざわざわ、ガタガタする雰囲気、人声、光、ほんとに休まらない。

   

私が入ったのが、クリスマス・イブだったこともあるかもしれない。

女性の看護師さんたちが、どこどこの何がおいしい、あそこのあれもおいしい、などの話で盛り上がり、キャッキャと笑って、うるさいのなんのって。

これって、いいのだろうか。

ご指導いただきたいところだ。

   

 また、部屋のどこかで、小さい音だったがクリスマスソングを鳴らしていた。

今それを聞きたい状態じゃないんだけど……。

とにかく刺激が全部つらい。

静かなところに行きたい、と切に願った。

   

邪魔にならない音楽

 そんなとき、そのような容体のときでも、耳に全く邪魔にならない音楽があった。

パッヘルベルのカノンだ。

   

Johann Pachelbel – Canon & Gigue in D major パッヘルベルのカノン

   

この病院では、時々それが流れる。

演奏しているのはマリンバ(木琴)のような楽器だけで、実に静かに、ゆっくりと流れていく。

   

 昔からいやしの音楽として有名だが、そのりょくを改めて知らされた。

どうしてこんなに邪魔にならないのだろう、と考えた。
   

この音楽には、人の気を引くような変則的なリズムもないし、特殊な表現性をもつ和音もない。

すべてが予定調和の中に収まり、心地よく進む。

小川の水が、どこまでも、さらさらと流れていくように。

   

 元気なときは、ことさら聞きたいと思うほどの音楽ではないが、全身が弱っているときには、これほど心地よく耳に入ってくる音楽はないと思われた。

あの世に行ったら、ぜひパッヘルベルさんに、このことを伝えようと思う。

   

   

   

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