「パッへルベルのカノン」の力
ICUは刺激が多い
ICU(集中治療室)というところは、実にうるさくて刺激の多い部屋だ。
いろいろな機械音、ざわざわ、ガタガタする雰囲気、人声、光、ほんとに休まらない。
私が入ったのが、クリスマス・イブだったこともあるかもしれない。
女性の看護師さんたちが、どこどこの何がおいしい、あそこのあれもおいしい、などの話で盛り上がり、キャッキャと笑って、うるさいのなんのって。
これって、いいのだろうか。
ご指導いただきたいところだ。
また、部屋のどこかで、小さい音だったがクリスマスソングを鳴らしていた。
今それを聞きたい状態じゃないんだけど……。
とにかく刺激が全部つらい。
静かなところに行きたい、と切に願った。
邪魔にならない音楽
そんなとき、そのような容体のときでも、耳に全く邪魔にならない音楽があった。
パッヘルベルのカノンだ。
この病院では、時々それが流れる。
演奏しているのはマリンバ(木琴)のような楽器だけで、実に静かに、ゆっくりと流れていく。
昔から癒しの音楽として有名だが、その威力を改めて知らされた。
どうしてこんなに邪魔にならないのだろう、と考えた。
この音楽には、人の気を引くような変則的なリズムもないし、特殊な表現性をもつ和音もない。
すべてが予定調和の中に収まり、心地よく進む。
小川の水が、どこまでも、さらさらと流れていくように。
元気なときは、ことさら聞きたいと思うほどの音楽ではないが、全身が弱っているときには、これほど心地よく耳に入ってくる音楽はないと思われた。
あの世に行ったら、ぜひパッヘルベルさんに、このことを伝えようと思う。
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