今はデパートと言うのが普通だが、当時は百貨店だった。
東京では日本橋の三越が老舗で有名だが、大丸が東京に出店した。
たしか、大丸は大阪の百貨店だったと思う。
その大丸が、当時としては珍しいエスカレーターというものを導入したと聞き、新し物好きの母は、さっそく私と妹を連れて大丸に行ったのだ。
いよいよエスカレーターなるものに乗ることになった。
そのころは、エスカレーターの乗り口の横に女の人が座って、運転というか、動きをコントロールしていた。
妹はまだ3歳、私は5歳だった。
母は妹を真ん中にし、手をつないで3人横に並んで乗った。
母は端っこになった私に、ベルトにしっかりつかまるように言った。
ベルトにしっかりつかまったのだが、体がわきの壁の部分に押し付けられ
ベルトや階段部分が上へ上へと進むのに、私の体が残されていくような格好になってしまった。
ついに私は後ろに倒れ、続いて母も妹も倒れた。
母はなにか叫んだと思う。
そのとき下の乗り口にいた女の人が、咄嗟にエスカレーターを止めてくれて、大事に至らなかったが、ほんとに恐ろしい体験だった。
今だったら、そういう係の人はいないわけだから、同じことが起こったら大変なことになるだろう。
母はことの顛末を父に報告し、この事故の原因は、私が鈍くさかったから、ということになったようだ。
そうなんだろうか。
コメント