第27話 トロンボーンと窓

satsuma mandarins 学童期(関西編)

    
 母の弟の中に、大学生の弟がいた。

私にとっては叔父にあたるわけだが、この叔父の部屋に入るのが好きだった。

叔父のいない間に、内緒でそっと入るのだ。
   

 男子大学生の部屋としては、とてもきちんと片付いていた。

ベッドの上には、トロンボーンがおいてあった。

たぶん大学のサークルでやっていたのだと思う。

私はなぜトランペットではなくて、トロンボーンなんだろうと思っていた。

トロンボーンの方が、バルブが無くて難しそうだと思っていたからだ。

   

 机が窓の前に置いてある。

2階なので、窓から外を見ると、遠くに海が見えるのだった。

家は、海から山に向かって高くなっていく斜面に建っていたので、窓から遠くを見下ろすかっこうになる。

海までの風景が広がっている。
   

 そこここに夏ミカンの木が見えた。

この辺りは、庭に夏ミカンや金柑などの柑橘類を植えている家が多い。

童謡の「みかんの花咲く丘」とそっくりだと思った。

いつまでも眺めていたかった。

   

 家の別の窓からは、海と反対側の方向に山が見えた。

山は、季節の移り変わりとともに色を変えていく。

それも一色ではなく、微妙に違ういろいろな色がきれいな模様を織りなしていた。

   

 また階段を上がったところの窓からは、家の前の道路が見えた。

道路はアスファルトの坂道だった。

台風のときは、激しい雨が道路を走って駆け下りていくように見えた。

こうして窓から外をのぞくのが、今でも好きだ。

   

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