母の弟の中に、大学生の弟がいた。
私にとっては叔父にあたるわけだが、この叔父の部屋に入るのが好きだった。
叔父のいない間に、内緒でそっと入るのだ。
男子大学生の部屋としては、とてもきちんと片付いていた。
ベッドの上には、トロンボーンがおいてあった。
たぶん大学のサークルでやっていたのだと思う。
私はなぜトランペットではなくて、トロンボーンなんだろうと思っていた。
トロンボーンの方が、バルブが無くて難しそうだと思っていたからだ。
机が窓の前に置いてある。
2階なので、窓から外を見ると、遠くに海が見えるのだった。
家は、海から山に向かって高くなっていく斜面に建っていたので、窓から遠くを見下ろすかっこうになる。
海までの風景が広がっている。
そこここに夏ミカンの木が見えた。
この辺りは、庭に夏ミカンや金柑などの柑橘類を植えている家が多い。
童謡の「みかんの花咲く丘」とそっくりだと思った。
いつまでも眺めていたかった。
家の別の窓からは、海と反対側の方向に山が見えた。
山は、季節の移り変わりとともに色を変えていく。
それも一色ではなく、微妙に違ういろいろな色がきれいな模様を織りなしていた。
また階段を上がったところの窓からは、家の前の道路が見えた。
道路はアスファルトの坂道だった。
台風のときは、激しい雨が道路を走って駆け下りていくように見えた。
こうして窓から外をのぞくのが、今でも好きだ。
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