中学生の読書
小さい頃は本を読むのが大好きだったが、中学生になると勢いはかなり鈍った。
というのも、読んでいたのは子ども向きの物語が主で、いわゆる文学ではなかったからだ。
中学の友だちは、シャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」、エミリー・ブロンテの「嵐が丘」、ヘッセの「知と愛」などといった文学を読んでいた。
私も真似をしてロマン・ロランの「魅せられたる魂」とか、トルストイの「復活」などを読もうとしたが、複雑でめんどくさくて続かなかった。
ちなみに「知と愛」は、大学生になってから読んだ。
とても面白かった。
私には早かったのだろう。
中学生でこれを読んでいた友だちは、ずいぶん早熟だったんだなあ。
晩熟な私は、それより安易に楽しめる推理小説に走った。
アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」「オリエント急行の殺人」「メソポタミヤの殺人」、
エラリー・クイーンの「エジプト十字架の謎」「シャム双生児の謎」「Xの悲劇」、
ルパン全集では「二つえくぼの女」「青い眼の女」などが面白かった。
また、ポーの「モルグ街の殺人」とか、コナン・ドイルの「まだらの紐」といった怖くてぞっとするようなものにも首を突っ込んだ。
風の中の瞳
3年生の時、新田次郎の「風の中の瞳」という小説が流行った。
久しぶりに夢中になって読んだ小説だ。
これはそのころの私たちとちょうど同じ、高校受験を控えた中学3年生の子どもたちと教師の交流を通して描いた青春小説だ。
当時、東京の高校で一番レベルが高いと言われていたのは都立日比谷高校だった。
中学で勉強ができる人たちは、たいていここを目指した。
私たちの学校も、そうだった(ちなみに私は違う)。
「風の中の瞳」に登場する中学3年生たちも、名前は出していないものの、どうやら日比谷高校を目指しているらしい。
「これ、私たちのことを書いているみたいだね」と言い合ったものだ。
優等生タイプのリーダー格の男子、
それの女性版といった感じのしっかり者の女子、
少しか弱い感じだが男性好みの感じの女子、
ちょっとぐれかかった男子など、数人の仲間たちが主人公だ。
みな同じ高校を目指している。
勉強のしかたとか
ソフトボール大会のシーンとか
家庭の都合で高校には進めないだろうといった悩みとか、この年代にありがちなエピソードがたくさん出てくる。
自分たちと重ね合わせて興味深く読んだ。
蓼科に登山するという山場があり、そこで天候が悪化し遭難しかける。
か弱くて女の子っぽい女子が足をくじき、リーダー格の男子の彼女に対する態度を見て、
彼に想いを寄せていたしっかり者の女子が、「彼は彼女が好きなんだ」と確信し傷心する。
これもこの年代の女子にとっては身につまされるシーンであった。
新田次郎さんて、どうして私たちのことを知っているんだろう、と思ったほどだ。
そして私たちも卒業の日を迎えた。
卒業式では次のように歌った。
みどり萌出で 花は近く
学びの窓に 春は還る
三年(みとせ)の月日 夢と流れ
別れの朝は 早来たりぬ 注1
と、美しいメロディーで序章のように歌い、続けて……
仰げば尊し 我が師の恩
教の庭にも はや幾年
思えば いと疾し この年月
今こそ別れめ いざさらば 注2
……
注1 「分袖(ぶんしゅう)」 作詞 黒川 真頼
注2 「仰げば尊し」 作詞 T. H. Brosnan 日本語詞 不詳
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