そのころ、神社の入り口辺りとか、駅の近くの少し広いところなどに、
白い服を着て、白い帽子をかぶり、足の膝から下がなかったり、腕が半分だったりして、
白い包帯のようなものをぐるぐる巻きにした人が、座って手をついてじっとしている姿をみかけた。
傷痍軍人と呼ばれる人たちだった。
座っている前には箱とか缶が置いてあり、通りかかった人が、そこにお金を入れてあげるのだった。
私はその白い傷痍軍人さんにお金を入れてあげるのが、自分の務めのように勝手に思い込んでいて、
見かけると必ず母にせがんでお金をもらって入れに行った。
当時、10円札というものがあった。
緑色をしていたと思う。
私は10円を入れたかったが、母はもっと小さいお金しかくれなかった。
うちも決して裕福ではなかったのだ。
少々不満だったが、お金を入れると、なぜかほっとしたものだ。
後で知ったことだが、中には傷痍軍人のふりをしてお金をもらう人も、いたらしい。
どちらにしても、生活が苦しい人がたくさんいたのだと思う。
少しでもお金があれば、ない人に分けるのが当たり前と誰もが思うような、そんな時代だったと思う。
コメント