脱脂粉乳
お昼どきに学校や病院に行くと、なんともいえないにおいがしてくるものだ。
給食のにおいだ。
あれを美味しそうと感じる人もいるかもしれないが、私は苦手だ。
どうして家のご飯のにおいと、給食のにおいは違うのだろうか。
一度にたくさん作ると、ああいうにおいになるのだろうか。
そういうわけで、1年生のころ、給食がほとんど食べられなかった。
それにあの脱脂粉乳。
牛乳のような味をイメージして一口飲むと、全く違う。
うす甘い味がつけてあるが、それがさらに気持ち悪くしている。
とても飲み下すことはできなかった。
平気で飲んでいる子もいたが、私と同じように飲めない子もいた。
あれはほんとうに人間の飲むものなのだろうかと思っていたが、
後にあれは進駐軍の放出物資の一つで、本来、豚のえさなのだという噂を聞いたことがある。
初めのうちは先生も飲ませようとしたが、そのうち、飲まなくても許されるようになったと記憶している。
ある時、給食にきつねうどんのようなものが出た。
これなら食べられるかも、と食べ始めると、先生が来て「そうそう、その調子、がんばって」と私の肩に手を置いて励ました。
優しい、おじいちゃんの先生だった。
私が食べてくれたのが、よほど嬉しかったのだろう。
マクニン
そのころは、おなかに寄生虫のいる子どもが多かった。
それで学校全体で「マクニン」と呼ばれる、虫下しの薬を飲まされた。
そのまずさは、脱脂粉乳に勝るとも劣らないものだった。
表現のしようがない薄茶色の液体で、それがアルマイトのおわんいっぱいに入っていた。
それを全部飲めというわけだ。
これはさすがに、ほとんどの子がいやがった。
飲んで見せた子はまさしく英雄であった。
学校のどこで飲んだのか記憶は定かではないが、水道のところで飲むふりをして、ほとんど捨てたことを覚えている。
これはクラスにとても頭の回る女の子がいて、その子が教えてくれた方法であった。
あんなに給食がきらいだったのに、その後6年生になるころには、おかわりまでするようになっていた。
不思議なものだ。
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