第6話 傷痍軍人

abstract painting 幼児期

   

 そのころ、神社の入り口辺りとか駅の近くの少し広いところなどに、白い服を着て白い帽子をかぶり、足の膝から下がなかったり腕が半分だったりして、白い包帯のようなものをぐるぐる巻きにした人が、座って手をついて、じっとしている姿をみかけた。

しょう軍人と呼ばれる人たちだった。

   

 座っている前には箱とか缶が置いてあり、通りかかった人が、そこにお金を入れてあげるのだった。

私はその白い傷痍軍人さんにお金を入れてあげるのが、自分のつとめのように勝手かってに思い込んでいて、見かけると必ず母にせがんでお金をもらって入れに行った。

   

 当時、10円札というものがあった。

緑色をしていたと思う。

私は10円を入れたかったが、母はもっと小さいお金しかくれなかった。

うちも決して裕福ではなかったのだ。

少々不満だったが、お金を入れると、なぜかほっとしたものだ。

   

 後で知ったことだが、中には傷痍軍人のふりをしてお金をもらう人も、いたらしい。

どちらにしても、生活が苦しい人がたくさんいたのだと思う。

少しでもお金があれば、ない人に分けるのが当たり前と誰もが思うような、そんな時代だったと思う。

   

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